「老いる家 崩れる町 住宅過剰社会の末路」を読んで思ったこと
「老いる家 崩れる町 住宅過剰社会の末路(野澤千絵 著)」を読みました。
人口減少に伴い空き家や所有者不明の土地の増加が課題となっていますが、本書も、既に世帯数を上回る住宅ストックがありながら、新築住宅が依然大量につくり続けられている現状や、この現状から脱却する方策について述べられています。
本書の要点をざっくり書きますと
① 現状及び課題
- 世帯総数に対して、住宅のストック数(住宅総数)は16%も多く<2013年度>、数の上では住宅の量は十分足りている状況
- 日本は欧米と比較して新築住宅の着工戸数が多く、2014年の人口1000人あたりの新築住宅着工戸数は、イギリスの2.8倍、アメリカの2.3倍、フランスの1.3倍であり、欧米に比べて新築住宅を大量につくり続けている国
- 新築住宅をつくること、購入すること自体が悪いわけではない。
- 問題なのは、新築住宅が、居住地としての基盤(道路や小学校・公園など)が十分に整っていないような区域でも、いまだに野放図につくり続けられていること。
- 野放図につくり続けられることにより、結果として、多額の税金が投入されることになる。
- このまま住宅過剰社会を助長すれば、将来世代に負の遺産となる住宅やまちを押しつけてしまうことになる。
② 住宅過剰社会から脱却するための7つの方策
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自分たちのまちへの無関心・無意識をやめる。
都市計画を政治や行政任せにせず私たちひとり一人が、インフラ・公共施設の整備によるプラスの要素とマイナスの要素のバランスを考える視点を当たり前のものとして持つことが重要
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住宅総量を居住地面積をこれ以上増やさない。
市街化調整区域の規制緩和を可能とする区域の廃止や縮小に本格的に取り組むべき。
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「それなりの」暮らしが成り立つ「まちのまとまり」をつくる。
農村集落を含めて、行政サービス・生活利便・支援サービスを効率的に行うためのネットワークを維持、形成するという観点から、まちのまとまりを設定
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住宅の立地誘導のための実効性のある仕組みをつくる。
まちのまとまりに設定した立地に住宅を建てるほうが税制・金融等のメリットがあるようなインセンティブを設ける。 - 今ある住宅・居住地の再生や更新を重視する。
空き家の中古流通の促進を支援するとともに、空き家の多様なニーズに合うリノベーションを行うといった「空き家の優良賃貸化」に向けた支援を充実
- 住宅の終末期への対応を早急に構築する。
住宅の解体・除却費用を確実に捻出できる新たな仕組みの構築が早急に必要。例えば
・住宅の解体・除却を支援するための本格的な基金を事前に積み立てる仕組みをつくる。
・家電リサイクル法のように新築住宅の購入時に解体・除却費用のための費用を別途徴収する。
・住宅メンテナンス保険といった住宅の維持管理がまかなえる新たな保険の商品などを開発し、インセンティブとして税控除などの優遇措置を盛り込む。
- もう一歩先の将来リスクを見極める
「住宅や立地が大幅に悪化せずにそれなりに暮らしが維持される見込みがあるのか」「相続した子供たち世代が売るとなった場合に、書い手がつく可能性があるのか」といったことまで考えることが必要
著者は7つの方策をあげていますが、
①中古住宅をいかにして活かすか
②活かせない中古住宅は、いかにして円滑に解体・除去出来るようにするか
が、ポイントだと思います。
自治体では「空き家バンク」とか行っていますが、どうしても新築物件が好まれますので、空き家を始めとした中古住宅を取得することに対し、大きなインセンティブを与えるような取り組みが必要です。
それでも活用出来ない中古住宅は、すみかに解体すべきだと思いますが、解体費用がネックで進まないことに対しては、著者の意見が参考になると思います。
空き家の問題は今後ますます深刻になると思いますが、空き家の増加が進まないような抜本的な取り組みを期待したいです。