2030年 雇用大崩壊
「人工知能と経済の未来 ~2030年雇用大崩壊~」井上智洋 著 2016年文藝春秋 を読みました。
関心を持った点について紹介します。
1 2045年 全ての労働者は飢える?
- 今、世の中に存在するAIは全て「特化型AI」。例えば、チェスのチャンピオンを打ち破ったプログラム「ディープ・ブルー」はチェスに特化したAI
- これに対し、あらゆる課題・目的に対応できるようなAIを「汎用AI」と言い、汎用AIこそが人工知能と呼ぶに値するものであり、特化型AIは人工知能と呼ぶに値しないと考える研究者もいる。
- 2030年くらいに汎用AIが実現すると、今からほぼ30年後の2045年頃には、全人口の1割しか労働していない社会が到来するかもしれない。
- 2045年の未来では、ロボットが商品を作る無人工場があり、それを所有する資本家のみが所得を得て、労働者が所得を得られないかもしれない。
- 労働者をAI・ロボットに置き換える度に、労働者の取り分が減って経営者や株主の取り分が増える。
- 収入の道を断たれた労働者は有料の商品を買うことができない。
- 汎用AIにより、全ての労働者は労働から解放され、もはや搾取されることもなくなるが、同時に飢えて死ぬしかなくなる。(本書より)
悲観的なシナリオですが、「それほど突飛なものではなく現実的な未来図」と著者は述べています。
労働者は死ぬしかないのか。ということに対し、著者はベーシックインカムについて述べています。
2 ベーシックインカムの優位性
著者は生活保護と比較してベーシックインカムが優位であると述べています。
その理由として
- 全国民があまねく受給するものだから取りこぼしがなく、誰も屈辱を味わうことがない。
- 労働しても受給額は減額されないので労働意欲を損ねにくいと考えられる。
- ベーシックインカムを導入し既存の諸々の社会保障制度を廃止することができれば、社会保障制度に関する行政制度は極度に簡素化される。
- 社会保障に費やされる事務手続きや行政コストが大幅に削減
(本書より)
2以外は、ベーシックインカムの特徴や利点としてよく聞くことですが、2については、「働いていなくても収入が得られるなら、勤労意欲がなくなるのでは」という真反対の意見も目にします。
その点について著者は「給付額による」と述べられています。当然ですが、給付額が多ければ勤労意欲が低下します。
では、どの程度の金額が妥当なのでしょうか。
著者は極度のインフレが起きない程度に留める必要があるとして、月7万円程度と述べています。
3 財源は問題ではない
ベーシックインカムを導入する場合、財源が問題となりますが、著者は財源は問題ではないと述べています。理由は
- 一人月7万円の給付とした場合、年間で給付総額は100兆円となる。
- 100兆円を消費税や所得税などの税収でまかなうと想定した場合、理屈上国民全体にとって損も得も生じない。(つまり、自分の納めた税金が給付となって、ブーメランのように自分に返ってくるだけ)
- 生活保護は選別のためのコストが掛かるが、ベーシックインカムはほとんど掛からない。(本書より)
理屈ではそうかもしれませんが、富裕層はかなり税負担が重くなるとともに、やや税負担が多い人は勤労の意欲をなくすのではないかと思います。
4 ベーシックインカムの試算
- ベーシックインカムの導入により、基礎年金の政府負担や生活保護、児童手当などは廃止となり、その合計額は約36兆円
- ベーシックインカムの年間予算約100兆円から36兆円を引いた64兆円を全て所得増税でまかなうとする。
- 日本人の所得は250兆円。25%の所得税をかければ64兆円が捻出
- 年収336万円が損得の分岐点となるが、家族が多ければ、336万円より年収が多くても得になるため、少子化対策にもなる。
- 損をするケーズは、例えば、年収2000万円で専業主婦と子供2人の世帯なら、純負担が164万円となる。
- このような高所得層に至ってようやく純負担が発生(本書より)
こう見るとベーシックインカムはすばらしい制度えであるような気がしますが、何か落とし穴があるのではとも思います。
ベーシックインカムについて否定的な意見も今後紹介したいと思います。